相続時精算課税に係る還付金の消滅時効の起算点は相続発生時
東京地裁令和2年3月10日判決
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相続時精算課税により母親から贈与を受けた納税者が、母親の相続発生後5年超経過後に、支払った贈与税の還付申告をしたところ、すでに還付金請求権は時効により消滅しているとして税務署から門前払いされた。還付金請求権が消滅する時効の起算点は相続発生時か、相続税の申告期限到来時かが争われたが、東京地裁は、相続発生時から起算して5年を経過した時点で時効が成立すると判断、納税者の請求を一蹴した。
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Xは平成21年10月、母・甲から現預金2,000万円を相続時精算課税により贈与を受けた。この受贈に際しては、特別控除額の2,500万円に達しなかったため、贈与税は発生しなかった。
つづいて平成22年4月、Xは再び甲から現金2,000万円を受贈。この時は、前回受贈時に使用した特別控除の残額500万円を控除した1,500万円が課税価格となり、贈与税率20%を乗じた300万円の贈与税が発生したため、Xは申告・納税した。
その後、甲は死亡。相続人はXを含め3名で、相続税の基礎控除額は8,000万円であったため(当時)、相続税の申告義務は発生しなかった。
それから5年超が経過した平成30年11月、Xは平成22年分の贈与税300万円の還付を受けるための相続税申告書を提出。しかし税務署長は、甲の相続開始日の翌日から起算して5年を経過しており、時効により還付金請求権は消滅しているとして、還付を認めなかった。
Xはこれを不服として訴えを提起。
争点は、本件還付金請求権が時効により消滅したか否か。具体的には、国税通則法74条1項の解釈だ。
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(還付金等の消滅時効)
第74条 還付金等に係る国に対する請求権は、その請求をすることができる日から5年間行使しないことによって、時効により消滅する。(以下略)
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国側は、74条1項の「請求することができる」とはその権利の行使について法律上の障害がなく、権利の性質上、その権利行為が現実に期待のできるものであることを要すると解するのが相当であり、現実に期待のできるものとなる時期は、相続開始の時であると主張。
これに対しXは、以下のような理由から「その請求をすることができる日」は「相続税の法定申告期限の最終日」と異論を唱えた。
(1) 相続税の課税物件の調査、確定及び評価に相当の手間と時間を要し、相続開始の時に還付金請求権の行使を現実に期待することはできない。
(2) 相続開始があったことを知った日の翌日から10か月の相続税の申告期限が設けられている以上、納税者は申告期限の最終日までに申告すればよいと考えるのが通常であり、抽象的に相続開始時から申告が可能であるとし、申告期限をもって権利行使を怠っている期間とみるような解釈は、納税者に不能を強いるのと同じである。
(3) 国税の賦課権があるのに、還付金請求権が先に消滅時効にかかるというのは均衡を失する。
東京地裁は、相続税法上、相続時精算課税に係る贈与税相当額の還付金請求権については申告期限の定めはないが、相続の開始時に相続税の納税義務が発生する一方で、同還付金請求権がある場合にはその額の算定も可能となるから、同還付金請求権に係る国税通則法74条1項所定の「その請求をすることができる日」は、相続開始の日と解すべきであると判断。よって本件還付請求権は時効により消滅しているとして、Xの請求を棄却した。