お問い合わせ

  • 〒101-0032
  • 東京都千代田区岩本町1-2-19
  • 株式会社日本法令 ZJS会員係
  • 会員直通:03(6858)6965
  • FAX番号:03(6858)6968
お電話での受付時間
平日 9:00~12:00
  13:00~17:30

お問い合わせはこちら

SSL グローバルサインのサイトシール

このシステムは、SSL(Secure Socket Layer) 技術を使用しています。ご入力いただいたお客様情報はSSL暗号化通信により保護されております。SSL詳細は上のセキュアシールをクリックして確認することができます。

Article

注目判決・裁決例(東京地裁令和2年3月10日判決)

2021年07月09日
税理士報酬を支払う旨の黙示の合意があったと判示
東京地裁令和2年3月10日判決
---------------------------------------------------------
相続税の申告・納付に係る事務等を執り行った税理士がその報酬を請求したところ、一部の相続人から支払を拒否された。税理士が後継ぎとなる相続人にのみ与し、他の相続人に不利益を強いたことがその主な原因と思われるが、東京地裁は、税理士に対する委任契約は成立していたし、すべての相続人が報酬を支払う旨の黙示の合意がなされていたと判断した。ただし、税理士が行った個々の業務の対価性については個別に判断すべきとした。
---------------------------------------------------------
税理士であるXは、元同僚であるA(故人)の妻Bの実家・甲家の顧問税理士を務めていた。
甲には妻乙のほか、長女B、次女Y1、Y2の3人の娘がおり、故Aも甲乙の養子となっていた。
また、故AとBの間にはC、D、Eの3人の子があった。
甲は昭和63年に死亡。Xは顧問税理士として、遺産分割協議における助言や相続税の申告手続等を行った。
その後、乙が平成20年9月に死亡。相続人はB、Y1、Y2、C、D、Eの6名であった。なお、乙は「すべての財産をBに譲り、Y1、Y2には500万円ずつ渡す」旨の遺言書を残していた。
平成21年4月頃から始まった遺産分割協議にはXも参加。相続税の計算書等を示して説明し、相続税の当初申告を行った。なお、当初申告では、取得財産合計額が約7億3,300万円、うちBの取得財産が約7億600万円、その他の相続人の取得財産がそれぞれ約540万円とされていた。
またXは、相続税の納付手続や、Bに係る相続税額の延納申請手続も行った。
その後、平成23年6月に乙の相続に係る相続税額について税務署長から更正決定があり、取得財産合計額が約6億9,000万円に減額されているが、この更正の請求にはXは関わっていない。

ところで、平成21年7月頃からBとY1、Y2は遺産分割をめぐってお互いに弁護士を立てて係争していた。最終的に平成26年11月、Bが乙の遺産のすべてを取得すること、その代償として乙の土地を売却し、Y1、Y2にそれぞれ1億1,500万円を支払うことで合意が成立した。
これを受けてXは、平成27年12月、Y1、Y2に税理士報酬の請求を行ったが、Y1、Y2はこれを拒否し、相続税の修正申告も他の税理士に委任した。
XはY1、Y2にそれぞれ約520万円の支払を求めて提訴した。

争点は、(1)委任契約の成否とその内容、さらに(2)委任事務の履行の有無と相当報酬額だ。
争点(1)についてXはまず、顧問税理士として遺産分割協議ないし相続税申告手続を委任する旨の委任契約が成立しており、その内容は乙の相続に係る遺産分割協議及び相続税申告手続のみならず、遺産分割協議が終局的に解決し、相続税の申告等が終了するまでの一切の手続であると主張。
これに対しY1、Y2は、Xは終始一貫してBに与しており、Xにとっての依頼者はBのみというべきであり、委任契約は成立していないと反論した。
また争点(2)についてXは、本件委任契約の報酬額は、東京税理士会の旧税理士業務報酬規定等に照らし、(a)申告が約653万円、(b)更正請求が約128万円、(c)修正申告が約128万円、(d)税務調査対応の成功報酬が約612万円、(e)立会いの日当が130万円、(f)延納申請が20万円等とし、合計金額を和解に基づくY1、Y2の相続税額割合を乗じた金額である約520万円になると算定した。

東京地裁は、Y1、Y2がXによる遺産分割協議への立会いや相続税申告を行うことについて大まかな了解をしていたこと、相続税申告書にはY1、Y2らも押印していること、納付手続もXが行っていることから、委任契約が締結されたことは明らかとした。ただし、Xの行った個々の業務が相続税の申告等が終了するまでの「一切の手続」に該当するかは、個別に判断せざるを得ないとした。
その上で、争点(2)について、本件委任契約においてはY1、Y2らを含む乙の相続人らにおいて相当額の報酬を支払うとの「黙示の合意」がされたものと解するのが相当と判断。
さらにY1、Y2が支払うべき相当報酬額について検討すると、(a)申告が約398万円、(b)更正請求・(c)修正申告はXが行っていないので0、(d)税務調査対応の成功報酬については、減額更正されたことがXの功績ではないなどとして0、(e)立会いの日当については、遺産分割協議に係る立会い日数に応じ45万円までは認められ、税務調査の立会いについては認められないとし、(f)延納申請についてはY1、Y2には関わりがないとして否認した。
加えて、上記(a)の報酬も旧報酬規定に基づく上限額であり、現実には約7割に相当する278万円とするのが相当であり、(e)についてもXがBに与していたことが明らかであることなどに照らし各5万円とするのが相当と指摘。結果的にY1、Y2はそれぞれ56万円をXに支払うべきと判示した。