経営者の遊興費を交際費と申告したことは隠ぺい・仮装
東京地裁令和2年3月26日判決
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経営者がクラブで費消した遊興費を交際費として経理・申告した法人が、税務署からの指摘で修正申告をした後「隠ぺい・仮装」を認定され、重加算税の賦課決定処分を受けた。法人側はこれを不服とし、接待交際の事実はあり、修正申告も税理士が勝手に行ったものであるとして提訴。東京地裁は、法人側の主張には合理的な証拠がなく、接待交際の事実は認められないとして、処分を適法とした。
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X社ら3社は、甲が代表者あるいは実質的経営者である法人で、パチンコ店、労働者派遣事業、焼肉店を営んでいる。
甲は平成22年~平成27年にかけて、銀座所在のA、B、C、Dの4店舗のクラブを計372回利用。
X社らは、その支出額を交際費として損金の額に算入し、法人税の申告をした。また、同様に課税仕入れに係る支払対価の額に算入し、仕入税額控除をした上で消費税の申告を行った。
平成28年1月、板橋税務署はX社らの税務調査に順次着手し、総勘定元帳の交際費勘定に計上されている本件クラブ費は甲の個人的な飲食代金の金額が含まれていると指摘。顧問税理士のT税理士はこれを受けて、本件クラブ費のうち甲の個人的な飲食代金と考えられるものを抽出(計約6,600万円)し、これを甲に対する貸付金として処理し修正申告することを提案。X社らはこれに賛同し、修正申告を行った。
板橋税務署長は平成28年6月、X社らが取引先を接待した事実がないにもかかわらず、甲の個人的な飲食代金を交際費として計上したことは隠ぺい・仮装に該当するとして、重加算税の賦課決定処分を行った。
X社らはこの処分を不服とし、取消しを求めて訴えを提起した。
主要争点は、重加算税賦課決定処分の課税要件充足性について。
X社らはまず、税務署の意を受けたT税理士が甲に無断でX社らに専ら不利益をもたらす修正申告を行ったもので、代理権を濫用された無効なものだと主張した。
そして本件クラブ費は甲の個人的な飲食代金ではなく、X社らの接待等に要した交際費であるとして、以下のような根拠を示した。
(1) 甲はクラブを利用するたびに毎回のようにウイスキーやブランデーのボトルを注文していたが、甲1人で毎回ボトル1本分という大量のアルコールを摂取できるわけがなく、接待を行っていた証左である。
(2) 各クラブの売上集計表の大半には甲が利用した際の来店者数を1名と記載しているが、これは上客である甲に対して店側が基本料金をサービスする目的で1名と記載したものにすぎない。
東京地裁は、まず本件修正申告の有効性について、税務署の担当調査官は当初、本件クラブ費のほか、研修費及び貸倒損失の損金算入についても否認する方向で調整していたが、T税理士の折衝の結果本件クラブ費のみの否認となり、否認額は2億6,500万円以上も減額されたことをT税理士が甲にメールで報告していた事実に注目。T税理士はその他さまざまな状況もつぶさに報告し、甲もこれに異論を述べることはなく、修正申告に至ったものであるから、甲は修正申告の内容を十分認識し、了承をしていたと認められ、本件修正申告が有効なものであることは明らかとした。
また、本件クラブ費が甲の個人的な飲食代金か否かについては、総額約6,600万円、1回当たり約20万円という高額な代金を支払って、高い頻度で接待等を行うことがX社らの業務との関係があったとする合理的な説明はないと指摘。
さらに、A~Dの4店舗は、いずれも甲がひいきにしていたホステスPが勤務していた店であり、Pが移籍するたびに移籍先のクラブを利用していた上、Pとは頻繁に同伴出勤やアフターをし、飲食を共にしていたことも、甲の個人的な目的によるものであったと強く疑われる状況であったとした。
また、X社らの主張については以下のように判示し、採用できないとした。
(1) 毎回ボトル1本を1人で摂取したとは認めがたいから複数人でクラブを利用していたと主張するが、本件クラブのような接待飲食店では、客が注文したボトルをホステスが客の許可を得て飲むことがあり、甲も尋問においてそのようなことがあったと認めていることから、この主張は前提を欠くものである。
(2) 各クラブの売上集計表には来店者が甲1名であったと記載されていることについて、基本料金をサービスする目的で1名と記載したにすぎないとする主張は、クラブの売上の減少につながるこのような扱いが多数回にわたり継続されていたとは俄かには認め難い。
以上のとおり、本件クラブ費は甲の個人的な飲食代金であり、法人税等及び消費税等の課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい・仮装したものと認められるから、重加算税賦課決定処分の課税要件は充足していると判断した。