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注目判決・裁決例(東京地裁令和3年2月26日判決)

2021年08月11日
独立した元従業員への報酬も「給与等」に該当
東京地裁令和3年2月26日判決
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会社を独立した元従業員に対して支払った報酬を課税仕入れとして消費税等の申告を行ったところ、「給与等」に該当するとして否認された。東京地裁は、元従業員が会社から空間的、時間的な拘束を受けていたため、報酬は労務の対価として支給されたものであり、所得税法28条1項の「給与等」に該当すると判断、課税処分を適法とした。
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塗装工事業等を営むX社は、平成27年4月から健康保険及び厚生年金保険に加入し、各従業員の給与から保険料を徴収することとなった。その説明を受けた従業員A、Bは、「給与が減額するのは困るので、今後は外注先として扱ってほしい」と申し出た。X社はこれを受入れ、同月31日に離職する旨を記載した「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出した。
A、Bは以後もX社の塗装作業に従事。X社に対し請求書を提出し、報酬の支払を受けた。
X社は本件報酬額を課税仕入れとして仕入税額控除を行い、平成28年4月課税期間、平成29年4月課税期間の消費税等の確定申告を行ったところ、所轄税務署長は本件報酬額は従業員に対する給与であり、課税仕入れには当たらないなどとして更正処分等を行った。X社はこの処分の取消しを求めて訴えを提起した。

裁判でX社は、A、Bは雇用契約を離脱しており、X社とA、Bとの間の合意を基準に判断すれば、一次的には本件報酬額は「給与所得」には当たらないと主張。
また、二次的な判断基準として「自己の計算と危険において独立して営まれているか」については、A、Bは自らの意思により労働保険から離脱し、労働災害があった場合には自己の責任を負うこととなっており、「使用者の指揮命令に服しているか」という従属性の基準からも、A、Bは約8年の経験を有する熟練工であり、X社に対して従属性があるとはいえず、本件報酬額は「給与所得」には当たらない、とも主張した。

東京地裁は、本件報酬額の「給与等」該当性について、下記のように判示し、所得税法28条1項の「給与等」に該当すると判断、X社の請求を棄却した。
(1) 非代替性の有無について、A、Bが作業を休むことになった場合には、A、Bが代替の作業員を手配するのではなくX社が手配していたことから、A、Bには代替性が認められていなかったことを示すものであり、「給与等」該当性を補強する要素となっている。
(2) 指揮監督性の観点から、A、Bは作業日、作業内容や作業時間を自由に決めることはなく、X社が両者の希望を聞いた上で作成する出面表に従って作業先を割り振られ、受注先の現場監督、X社代表者又は職長の指示に従って作業を行っていたから、A、Bは従業員であった時期と同様にX社から空間的、時間的な拘束を受け、X社の指揮命令に服し、継続的・断続的に労務・役務を提供していたというべきものであり、このことは「給与等」該当性判断において最も重視される。
(3) 危険負担について、A、Bには完成すべき作業の定めがなく、完成しなかったとしても作業日数に応じた報酬が支払われていたことから、本件報酬が仕事の完成の対価ではなく労務の提供に対する対価であったことを示すものである。
(4) 工具類の支給について、据置式の工具など高価な器具を所有、使用している場合は事業者としての性格が強く「給与等」該当性を弱める要素となるが、A、Bは現場で着る作業着と手持ちの道具箱に入るくらいのコテとヘラを用意し、それ以外の軍手、ハケ、ローラー、研磨機、マゼラーなどの道具や機械はX社から支給・貸与されていたから、従業員であった時期と同様であった。
(5) X社は「雇用保険被保険者資格喪失届」を提出しており、本件報酬額について源泉所得税を徴収せず、A、Bも事業所得として申告していた事実は、A、Bが「労働者」ではなかったことを示すものではあるが、役務の提供の対価として支出された金員が所得税法上の「給与等」に該当するか否かは当該対価の性質から実質的に判断すべきであり、当事者の主観的意図に拘束されるものではない。