課税処分の適否は総額主義による判断が妥当
東京地裁令和2年7月14日判決
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債務整理事業を行っていた弁護士法人が、所得金額が過少であるとして法人税の更正処分等を受けた。課税庁は債務整理事業に従事していた担当者に対する報酬を支払手数料と認定し、更正金額を確定したが、原告は当該事業の担当者が収益を横領していたものであり、課税処分の前提となる事実が誤っているため、処分は違法と主張した。東京地裁は、仮に原告の主張のとおり横領であったとしても、課税処分に係る所得金額等は原告主張額を下回るから、総額主義の観点から課税処分は適法と判断した。
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弁護士法人Xは、平成15年ごろから和解交渉を内容とする業務や過払金の返還請求、破産・民事再生等の債務整理業務を受任するようになった。職員のAはXの事務局長として、同事業に係る売上金の管理等、業務全般の監督を行っていた。また、職員BはXとの雇用関係はないものの、自らが担当する債務整理事業の売上の半分を受領する内容で、法律相談や過払金請求の相談等の事務整理等に従事していた。
BはX事務所の売上計算システムとは別に収支を入力し、Bの報酬を計算するための精算書を作成。Aはこの精算書に基づき、Bに対する報酬を支払っていた。
Xが申告した平成23年12月期~平成25年12月期までの同事業の売上高は約1,400万円~約3,000万円であったが、実際には約2億5,000万円~約5億円であった。
渋谷税務署長はXの調査に着手し、債務整理事業に係る売上を再計算。この際、Bに対する報酬は、平成23年12月期が約2億1,000万円、平成24年12月期が約1億2,500万円、平成25年12月期が約1億3,500万円であったが、これを「Bに対する支払手数料」として損金算入した上、更正金額を計算。更正処分等を行った。Xはこの処分を不服として、裁判に発展した。
裁判でXは、「Bに対する支払手数料」として損金算入された金額は、B及びAがXから横領したものだと指摘。青色申告等に係る法人税の更正処分の取消訴訟においては「争点主義」を原則とすべきであり、争点主義を前提とすれば、事実と異なる事由を理由とした課税処分は違法であると主張した。
東京地裁はまず、横領行為によって法人が損害を被った場合は、損害を生じた事業年度において損金の額に算入されるとともに、法人は横領した者に対して損害賠償請求権を取得するから、同事業年度において益金に算入すべきと指摘。
そして、課税処分取消訴訟における実体上の審判対象は、当該課税処分によって確定された税額の適否であり、課税処分における税務署長の所得等の認定に誤りがあったとしても、これにより確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回らなければ、当該課税処分は適法となると強調した。
これを本件に当てはめると、仮にXの主張どおりB及びAがXから横領したものであっても、損失として減算されるのと同時に益金に加算されるから、課税処分と比較して益金の額が増加するのみであり、Xの主張する所得金額等を下回るから、本件課税処分が違法であるとはいえないと判断。
さらに、Xは争点主義を原則とすべきと主張するが、国税通則法24条ないし29条等の規定からすれば、課税処分は当該年又は年度分の課税標準等又は租税額を数額的に確定させる処分であり、それが数額的に過少又は過大である場合にのみ行うものであって、数額確定の根拠事実が異なる場合に行うものではないと解されると判示、Xの主張を斥けた。