取立てが完了した差押処分に関する取消訴訟は「訴えの利益」なし
東京地裁令和2年9月25日判決
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10年以上前に滞納国税に係る差押処分を受け、取立てをされた納税者が「差押処分は違法」として、国家賠償法に基づく損害賠償金等の支払を求めた。東京地裁は、差押債権の取立ては完了しており、差押処分の効果は消滅しているから、訴えの利益を欠き不適法であるとして却下するとともに、納税者は輸出免税の適用不可により消費税等の納付義務を負っており、滞納をしていたと認められるから差押処分は適法であり、よって国家賠償法上の「違法」は認められないと判示した。
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植物繊維を原材料とするスポンジの製造等を営むX社は、平成20年3月28日に横浜中税務署長に対し平成18年12月期の法人税について更正の請求を行った。
その後、東京国税局長は同年4月10日、11日、X社に対し3件の差押処分を行った。東京国税局長は国税徴収法の規定に基づき、同年5月~9月にかけて、差押処分に係る債権計約926万円を取り立てた。
なお、上記更正の請求については、同年5月、横浜中税務署長がX社の法人税につき減額更正を行った。
それから10年以上が経過した令和元年10月、X社は上記差押処分を取り消し(取消訴訟)、国家賠償法に基づき損害額160万円の支払を求める訴訟(国賠訴訟)を提起した。
裁判でX社は、上記取消訴訟について、本件各差押処分は違法なものであるとした上で、東京国税局長はX社が更正の請求をした後で横浜中税務署長が減額更正をする前に本件各差押処分をしたことが職務怠慢及び連絡ミスに基づくものだと指摘。
また、平成20年4月10日当時、X社には法人税の滞納は存在せず、消費税等については、平成18年、19年課税期間に米国に輸出した輸出品の輸出免税について、通関業者の認識不足で手続がされていなかっただけで、実際には賦課されるべき消費税等はなかったのだから、消費税等の滞納があったとはいえないと主張した。
さらに、上記国賠訴訟に関しては、X社は本件各差押処分により当時の顧客の80%を失うとともに、信用も失い、株式を上場することも不可能となったとして、損害額は160万円を下らないと強調した。
東京地裁は、まず、取消訴訟の適法性について、東京国税局長において本件各差押処分により差し押さえた債権の取立てを完了していることが明らかであるから、本件各差押処分はいずれもその効果が消滅しているとした上で、X社がなお本件各差押処分の取消しによって回復すべき法律上の利益が存在すると解すべき事情は見出し難く、訴えの利益を欠き不適法であるとした。
また、X社に消費税等の滞納があったか否かについては、平成18年、19年課税期間の各消費税等について輸出免税の適用を受けた事実は認められないから、消費税等を収める義務を負っていたと指摘。X社は本件各差押処分を受けた当時、少なくとも約4,830万円の消費税等を滞納していたものと認められるとした。本件各差押処分によって取り立てられたのが約926万円であったことから、本件各差押処分は国税を徴収するために必要な財産の差押えをしたものということができると判断した。
以上により、本件各差押処分は適法であり、東京国税局長等の行為が国家賠償法に規定する「違法」なものとは認められないとして、X社の請求を却下・棄却した。