船舶の評価をめぐり贈与税決定処分を全部取消し
東京地裁令和2年10月1日判決
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非上場株式の生前贈与を受けたものの0円と評価して贈与税の申告をしていなかった納税者に対し、株式発行会社の外国子会社が保有している船舶70隻を評価すると株式の価額は約43億円になるとして贈与税の決定処分が行われた。具体的な船舶の評価方法が争われた結果、東京地裁は、納税者の主張どおり株式の評価は0円になると判断、課税処分を全部取り消した。
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海上運送業等を営むA社の代表取締役Xは平成21年2月、母親が所有していたB社の株式20株の生前贈与を受けた。B社はパナマ共和国を本店所在地とするC社の全株を保有。C社はパナマ船籍の船舶70隻を保有していたが、2,000億円を超える負債を抱えていたため、B社株式は0円として贈与税の申告を行わなかった。
処分行政庁は平成23年10月に、Xに係る平成21年分の贈与税の調査に着手。上記船舶の評価に当たっては、社団法人Dに鑑定評価を依頼した。
D社団は、70隻のうち34隻は取引事例比較法により、36隻は建造船価償却法により価格鑑定を行った。その結果、処分行政庁は船舶70隻を約2,224億6,000万円と評価した上で、C社株式を約374億6,000万円と、B社株式を約43億2,000万円と評価し、納付すべき贈与税額を約21億6,000万円、無申告加算税約4億3,000万円とする決定処分等を行った。
その後の審査請求で、XはE社による船舶の鑑定を依頼し、その鑑定結果を提出。E社鑑定では70隻のうち、贈与日現在において売却が予定されていた3隻については実際の売却価格から諸費用を控除した価格とし、その他の67隻については収益還元法のうちDCF法が採用された。その評価額は約1,719億1,000万円となり、C社株式もB社株式も0円となると主張。
結果的に課税処分の一部が取り消され、贈与税額約4億5,000万円、無申告加算税約9,000万円となったが、Xはこの裁決も不服として提訴した。
裁判では、売却船舶3隻については上記価格で争いがなく、残り67隻の評価額が争われた。
国側は、D社団は創業90年の船価鑑定専門業者であり、高い信頼性を有する精通者と認められるとした上で、定期傭船契約付き船舶であっても取引事例比較法によって適正に評価することができること、D社団鑑定における建造船価償却法が合理的であると主張した。
これに対しXは、係争船舶はいずれも定期傭船契約が付されており、売買されることは少ないため、取引事例比較法を用いるのに必要な売買事例はそもそも乏しいこと、建造船価償却法では船舶の価格は常に建造時点の市場価格に基づいて評価され、贈与日における係争船舶の価格を鑑定する手段としては合理性を欠くことを強調。その上で、DCF法では、評価対象船舶が契約期間中に生み出す収益価値と契約終了時の船舶価値を算定し、これを現在価値に割り引くことで鑑定しているのだから、この方法が合理的であることは明らかであると反論した。
東京地裁は、係争船舶にはすべて定期傭船契約が付されているが、定期傭船契約付き船舶の客観的な交換価値は評価時以降も契約が存続することが当然の前提となるから、船舶自体の価値を評価することのみでは足りず、契約によって見込まれる収益価値の評価も行うことが必要となると指摘。
その点、D社団鑑定における取引事例比較法の適用は、定期傭船料に係る調整対象期間を3年に限定している点において合理性を欠いており、残存傭船機関が3年以下の10隻については精通者意見価格として参酌することができるが、3年を超えるものについては参酌できないと判断した。
また、建造船価償却法については、造船契約締結時から評価時までの市況の変化について補正をしなかった点で合理性を欠くものであるから、精通者意見価格として参酌することができないとした。
さらに、E社鑑定については合理性が認められ、精通者意見価格として参酌することができるとした。結果的に67隻のうち10隻はD社団鑑定、その余の57隻についてはE社鑑定を採用し、70隻の評価額は約1,747億4,000万円と認定、C社株式もB社株式も0円になるとして、Xの請求を認容した。