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税理士向けニュース記事

注目判決・裁決例(平成30年7月9日裁決)

2019年05月15日
経済合理性なき見積りによる費用は債務控除の対象とならず
平成30年7月9日裁決
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被相続人が建設した建物の解体費用が相続税の債務控除をできるか否かが争われていた審査請求事案で、国税不服審判所は、建物解体費用の根拠となった業者の見積りは経済合理性に欠くものであったため、「確実な債務」とは認められないと判断。ただし、別業者が作成した見積りは経済合理性のあるものと認定し、債務控除の対象となると認めた。
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審査請求人Xらの父・被相続人甲は、昭和61年に地主Mから賃貸借の期間を30年とする土地の賃貸借契約を締結。同土地に建物(鉄骨造陸屋根5階建の店舗及び共同住宅)を建築した。
甲は平成18年ごろから賃料を滞納しはじめ、Mは数度にわたり支払の催告をしたものの、なお支払がなかったことから、平成22年5月に未払賃料の支払を催告するとともに、賃貸借契約解除の意思表示をした。同年6月にMは死亡したが、土地を相続したPは平成23年5月、甲を相手取り土地の明渡訴訟を提起。同月に甲も死亡した。
翌年、裁判所は甲の相続人であるXらに対し、本件建物を収去して本件土地を明け渡すとともに、未払賃料及び賃料相当損害金の支払義務を免れないとする判決を言い渡した。
Xらは平成27年3月、R社との間で本件建物の解体工事請負契約を締結。ところがR社は木造建築物の解体を主に取り扱っている業者であり、本件建物のような鉄骨鉄筋造のビルは扱いが少なく、また杭抜き工事はやったことがなかったことから、その見積りは数度にわたるとともに、同じ工事が重複するなど、極めて乱雑なものであった。さらに、杭抜き工事はS社が行ったものの、現地に重機を搬入することができず、結局、工事は中止となった。Xらは、杭抜き工事が不可能となったことで土地明渡義務の一部が履行不能となったことを受けて、平成28年12月、Pとの間で、将来地主が代替的に杭抜き工事を行うことの対価から預かり保証金を控除し、支払うことを合意した。
ここまでXらは、R社に対し約2,800万円、S社に対し1,300万円(当初見積りは4,900万円)、Pに対し約3,000万円を支払い、又は支払義務を負ったことから、平成29年3月、これらを債務控除の対象として更正の請求を行った。しかし、原処分庁は更正の理由がない旨の処分を行ったため、これを不服として審査請求に及んだ。

争点は、本件債務は、相続税法14条1項に規定する「確実と認められるもの」に該当するか否か。原処分庁は、本件債務のうち、本件土地を明け渡す義務については相続開始日において確実な
債務であるが、本件建物を収去する義務については、相続開始日において必ずしも収去する必要はなく、Pに引き渡す方法が選択可能であったから、Xらが本件建物を収去し、負担総額を負担したことは、相続開始日後の事情というべきであり、履行が確実な債務とは認められない旨主張した。
これに対し審判所は、本件債務は、相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであるから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であると指摘。原処分庁が述べるところは、確実な債務についての履行手段をいうものであって、これは相続開始日後の事情というほかなく、相続税法22条が控除すべき債務の金額はその時の現況による旨規定している趣旨に照らし、採用できず、本件債務は相続税法14条1項に規定する「確実と認められるもの」に該当すると判断。Xらの主張を認めた。

次に、控除すべき金額については、次のように指摘した。
(1) R社見積書は、建物解体工事や基礎解体工事の見積額の算定根拠となる数量について建物の床面積を大幅に上回る数量が記載されているほか、山留工事が複数回にわたり追加工事とされ、基礎解体工事の見積額も同業者の見積額と相当な開差が認められる。したがって、根拠となる見積額の適正性について疑問を持たざるを得ず、本件建物の解体工事費用として適正な価額であるとは認め難い。
(2) S社に対する支払額は、杭抜き工事に必要な重機搬入の時期を逸したことにより、工事を取りやめたために生じた精算金であり、相続開始日後の事情により本件相続人らが負った債務というべきものである。
(3) Pに対する将来の杭抜き工事費用の支払義務は、R社杭抜き工事見積書が根拠とされているが、これは杭抜き業者と取引のなかったR社がインターネットで検索し、工事可能と回答のあった業者の見積額に単に数%の利益を上乗せしたものであったというのであり、経済合理性にかなうものとは認め難い。
これらの理由から、上記負担額はいずれも債務控除の対象とはならないと判断した。

しかしながら、建物解体工事と杭抜き工事を一括して見積もった見積書としてU社の見積書については経済合理性にかない、工事の項目や数量及び単価も詳細かつ正確なものと認められるとした。したがって、本件債務として控除すべき金額は、U社見積書の見積額に相続開始日当時の消費税等の額を加算した約5,800万円とするのが相当であると判断、この範囲で原処分庁の処分を取り消した。