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税理士向けニュース記事

注目判決・裁決例(平成30年9月12日裁決)

2019年06月05日
株式の売主から支払われた金員は対価の返還か損害賠償金か
平成30年9月12日裁決
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上場株式を公開買付けにより取得した後に、不適切な会計が明らかになったことから、株式を売った取締役から「株式の取得対価が過大であった」との理由で金員を受領した。納税者はこの支払を「対価の返還」として益金の額には含まなかったが、原処分庁は「損害賠償金であり、益金の額に算入すべき」として更正した。国税不服審判所は、「売買代金の返還とは認められない」として、原処分庁を全面的に支持した。
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医療及びヘルスケア関連事業の営業等を営むX社は、上場企業であるA社を買収するべく、A社株式の公開買付けを行った。
公開買付けに先立ち、当時A社の代表取締役であり筆頭株主でもあった甲氏との間で、「公開買付けに関する契約書」を締結。この契約では、甲氏所有のA社株式を買い取る旨、またA社の決算書類が適正に作成されたものであることを甲氏が保証し、これに違反した場合には甲氏が損害を補償する趣旨の取決めが締結された。
X社は公開買付け等の結果、A社を完全子会社化することに成功。ところがその後、A社が不適切な会計処理を行っている旨の内部通報があり、売上げの前倒し計上等の事実が判明した。
X社は、公開買付け当時、A社の株式取得のために過大な支払いをしたことによる損害が生じたなどとして、甲氏及び取締役であった乙氏、丙氏に対し、損害賠償請求訴訟を提起した。
平成27年12月、両者は和解、甲氏、乙氏及び丙氏はX社に対し解決金を支払った。なお、このとき作成された和解調書の第2項には「本件解決金の支払いは、X社によるA社株式の取得対価が過大であったことを理由とするものであることを確認する」との記載が含まれた。

X社は平成28年3月期の法人税の確定申告で、本件解決金の額を益金に算入するとともに、同額を子会社株式の評価損として損金の額に算入した。
これに対し原処分庁は、株式の評価損が計上できる事実は生じていないなどとして更正処分をしたところ、X社は、当初申告時に本件解決金を益金算入した処理は誤りであり、本件解決金は益金の額に算入されず、「株式売買代金の返還」として支払われたものであるとして、原処分の取消しを求めて審査請求した。

争点は、本決解決金が「損害賠償金」に該当し、益金の額に算入されるか、「売買代金の減額」に該当し、益金の額に算入する必要はないか。
原処分庁は、本件解決金は損害賠償金としての性質を有するものであるから、益金の額に算入すべきと主張。
これに対しX社は、本件解決金は「表明保証違反」という契約不適合が生じた場合に対価の均衡を維持するために支払われるものであるが、これが単純な損害賠償金と誤解される可能性があったため、和解条項第2項で「本件解決金の支払いは、X社によるA社株式の取得対価が過大であったことを理由とするものであることを確認する」との一文を入れたのであり、このような経緯は、本件解決金が売買代金の減額調整金であることを裏付ける事情であると主張した。

これについて審判所は、本件解決金の性質の検討に当たっては、文言とともにその解釈に資するべき他の事情、特に裁判上の和解であるからこそ、本件訴訟の経過等をも十分に参酌して、当事者の真意を探求すべきと指摘。
その上で、和解条項第2項の文言は、本件解決金を支払うことになった「理由」であり、「X社によるA社株式の取得対価が過大であった」という記載されているが、「株式の売買代金の返還である」との記載はないことに注目。
本件訴訟の経緯を検討すると、(1)X社は、甲氏以外の株主から取得した株式についても過大支払額を損害として請求するとともに、調査費用や追加監査費用等についても請求していること、(2)公開買付け当時役員だった乙氏及び丙氏も訴えていることから、甲氏から取得した株式の売買代金の返還を求めるものとは認められず、損害賠償金と認められると判断した。