被相続人への名目的な金銭の貸付けは債務控除の対象となるか
令和3年6月17日裁決
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相続人が被相続人と生前に締結した「相続人を売主、被相続人を買主」とする建物売買契約に伴い、被相続人に生じた売買代金相当額の債務が、相続税の債務控除の対象となるかどうかが争われた。相続人は全額が対象となると主張し、原処分庁は全額が対象とならないと主張したところ、審判所は、債務のうち建物の相続税評価額を超える部分についてのみ債務控除の対象とならないと判断した。
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平成26年12月、甲が死亡し、その相続が開始した。相続人は、長男X、二男A、甲の配偶者Bの3名である。
甲の生前、Xは、甲の土地に建物を新築し、居住等していた。また二男Aも、甲とBが所有する別の土地に建物を新築していた。
相続発生の数か月前、Xは税理士法人Cの提案により、X所有の建物を約4,300万円で甲に譲渡する契約を締結。同時に、同額をXから甲に無利息で貸し付ける準消費貸借契約を締結した。なお、建物の未償却残高は約4,300万円であったが、固定資産税評価額は約2,100万円であった。
同様に、二男Aも同人所有の建物を約1億2,800万円(=未償却残高。固定資産税評価額は約4,100万円)で譲渡し、同額を無利息で貸し付ける契約を締結した。
相続開始後、Xと二男Aは、それぞれ準消費貸借契約に基づく債務を承継。それぞれの債務と債権は、相続開始日に遡って混同(民法520条)により消滅した。なお、相続税申告に際してXらは、これらの債務を控除すべき債務として計上するとともに、建物については固定資産税評価額により評価した。
原処分庁は、これらの債務は債務控除の対象とはならない等として、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
Xはこの処分を不服とし、再調査請求及び審査請求に及んだ。
原処分庁は、Xらは税理士法人Cの提案に基づき、建物の売買代金と相続税評価額との差額を利用して相続税の負担減を図って一連の契約を締結し、債務を履行することなく混同により消滅させたに過ぎず、債務は相続開始日において履行を予定していなかったことから、その全額が相続税法14条1項に規定する「確実と認められるもの」に該当せず、債務控除の対象とならない等と主張した。
これに対しXは、Xの建物売買契約は、二男Aにのみ多額の売買代金が支払われることで兄弟間に紛争が生じることを危惧した甲の希望により締結された合理的なものであって、契約に伴い甲に生じた債務は真正に成立した処分証書が存在し、法的に履行が強制されることから「確実と認められるもの」に該当する等と反論した。
審判所はまず、各契約の借入期間が長期間に及び、甲の生前に完済されることが予定されていたとは解されない等の各事情を総合すると、一連の契約が、各建物の売買金額と相続税評価額との間に生じる差額により相続税を軽減する目的で締結されたことは明らかと指摘。
売買代金は各建物の経済的価値を大きく超えるものと推認でき、この大きく超える部分については、いずれ混同により消滅させるべき債務を名目的に成立させたに過ぎないとして、相続税法14条1項規定の「確実と認められるもの」には該当しないと認定した。
一方で、相続開始日の現況における債務の消極的経済価値は通達評価額をもって把握するのが相当であり、「確実と認められる」債務の額はそれぞれの通達評価額に相当する額であると判断。
原処分庁の主張は、通達評価額に相当する額の債務控除を否定する限度において理由がないとし、課税処分を一部取り消した。