お問い合わせ

  • 〒101-0032
  • 東京都千代田区岩本町1-2-19
  • 株式会社日本法令 ZJS会員係
  • 会員直通:03(6858)6965
  • FAX番号:03(6858)6968
お電話での受付時間
平日 9:00~12:00
  13:00~17:30

お問い合わせはこちら

SSL グローバルサインのサイトシール

このシステムは、SSL(Secure Socket Layer) 技術を使用しています。ご入力いただいたお客様情報はSSL暗号化通信により保護されております。SSL詳細は上のセキュアシールをクリックして確認することができます。

税理士向けニュース記事

注目判決・裁決例(令和3年10月8日裁決)

2022年07月07日
「賃貸人の地位」の譲渡の対価は不動産所得に該当
令和3年10月8日裁決
---------------------------------------------------------
賃貸不動産の売買契約に伴い受領した代金が、不動産所得に当たるか譲渡所得に当たるかが争われた。審判所は、2者が締結した不動産売買契約は「土地及び建物」と「賃貸人の地位」の両財産を別個に認識したうえで売買することを目的としており、代金のうち賃貸契約の解約金に相当する金額は貸付けに起因する所得であることから、不動産所得に該当すると判断した。
---------------------------------------------------------
平成20年12月、Xは賃貸不動産(2階建ての共同住宅及び駐車場)について、K社との間に、用途をK社の社宅とし、契約期間を15年間とする賃貸借契約を締結した。この賃貸借契約は、解約金条項において、原則としてK社から中途解約することはできず、中途解約する場合は残賃貸借期間分の賃料を支払わなければならない旨を定めていた。
平成29年6月、Xは、この賃貸不動産を売却することで信用金庫からの借入金を返済するため、賃貸借契約を中途解約する意向をK社に示したところ、当時既に社宅として使用していなかったK社はXの意向に応じたので、賃貸借契約は合意解約されることとなった。X、K社、信用金庫、賃貸不動産の買受人Pの4者は同月、賃貸借契約の解約及び賃貸不動産のXからPへの売却について合意した。
平成29年7月、XはPとの間に、不動産の売買契約を締結した。この売買契約は、XのK社に対する解約申入れに伴う権利義務もPに承継され、K社から支払われる解約金を受領する地位もXからPに移転する旨を定めていた。また、売買契約書には、売買代金の総額3億9,648万円のみが記載されており、解約金など内訳の記載はなかった。
その後、Xが平成29年分の所得税等について期限内に申告をしたところ、原処分庁から調査等を受けたことから、平成30年12月、解約金に相当する額は不動産所得に該当する等とする修正申告書を提出した。
令和元年5月、Xは、修正申告により不動産所得であるとした金額は臨時所得に該当し、平均課税が適用されるべきであるなどとして更正の請求をしたが、原処分庁より更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けた。Xは、同年10月、上記処分を不服として再調査の請求をするとともに、本件解約金相当額はそもそも不動産所得ではなく譲渡所得に該当する等として再び更正の請求をしたが、原処分庁はこれに対しても更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたため、Xはこれらの処分を不服として審査請求に至った。

原処分庁は、解約金相当額は、XとK社との間の賃貸借契約の解約に基づく解約金としてXがK社から受領したものであり、賃貸不動産の貸付けにより生じた所得であるから、不動産所得に該当する等と主張した。
これに対しXは、解約金相当額は、売買契約に基づく売買代金に含まれており、売買契約に基づく賃貸不動産の対価としてXがPから受領したものであるから譲渡所得に該当し、仮に不動産所得に該当する場合には、賃貸借契約の終了に伴い支払われたものであり賃貸借契約による残賃貸借期間の補償の趣旨を有することから、臨時所得に該当するなどと反論した。

審判所はまず、売買契約の特約条項を合理的に解釈すると、売買契約は
(1) 賃貸不動産の所有権
(2) 賃貸借契約に基づく賃貸人たる地位及びこれに伴う権利義務の一切
(3) 解約申入れに基づきK社から支払われる解約金相当額を受領する地位
も移転させる趣旨のものと認められるとしつつ、売買代金3億9,648万円の内訳が明確でないことから、その全額が賃貸不動産の譲渡対価であるかどうかを検討。
(a) 解約金相当額の性質は、賃貸借契約に基づく中途解約金であること
(b) 賃貸借契約が合意解約され、解約金相当額が支払われることが売買契約の締結前に確定していたこと
(c) 売買契約に付された賃貸不動産の価格が解約金とは別に形成されていたこと
(d) 売買契約における売買代金から解約金相当額を除いた金額に相当する価格が、不動産の転売価格と均衡することが認められたこと
等の諸事情から、売買契約は、解約金相当額を含む売買代金総額の全てを賃貸不動産の譲渡対価とする趣旨のものではなく、さらに、売買契約の前に賃貸借契約が合意解約され解約金が支払われることが確定していたことから、「賃貸人の地位」の交換価値が、不動産そのものの交換価値から独立した「解約金相当額を受領する地位」の価値として客観的に把握することができたことからすれば、XとPは、売買された賃貸不動産と「賃貸人の地位」についてそれぞれ別個の価格を認識し、それら2つの財産を売買契約の目的としたとみるのが相当であり、解約金相当額はXが「賃貸人の地位」の対価として受領した金額であると認定。Xが受領した解約金相当額は、賃貸不動産の貸付けに起因して発生した所得であり、不動産所得に該当するとした。
その上で、賃貸借契約の残期間が3年以上あり、解約金相当額が賃料の3年分を上回ることから、解約金相当額に係る所得は臨時所得に該当し、平均課税の適用対象とされるべきであるとして、Xの納付すべき税額を計算したところ、修正申告書記載の税額を下回ったため、この部分について原処分を取り消した。