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税理士向けニュース記事

注目判決・裁決例(令和4年3月4日裁決)

2022年10月14日
マルチ商法への入会初期費用は必要経費に該当
令和4年3月4日裁決
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いわゆるマルチ商法において、会員登録申請料及び商品代金を支払って会員IDを取得した上で新規会員を募りあっせんの報酬を得ていた個人について、この登録申請料及び代金が事業所得の計算上必要経費に算入できるか否かが争われた。審判所は、一連の支出のうち会員IDを取得するためになされた部分についてのみ、必要経費に該当するとした。
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A社は、特定商取引法に規定する連鎖販売取引の方法(いわゆるマルチ商法)により「デジタルWEBコンテンツ」(同社作成の書面上では開発したアプリ等を提供するとされていたが、実際にはアプリ開発は実現しなかった)を販売する会社であった。
このコンテンツの購入希望者は必ず、既存のA社会員をあっせん者として自身も会員登録をしなければならないこととされていた。会員登録時は登録申請料を支払う必要があるほか、コンテンツを最低1口以上購入することが必要であった。
また、会員には5段階の「レベル」が設定されており、あっせん活動の実績とレベルに応じた報酬(特定利益)を得ることができる仕組みとなっていた。なお、会員がコンテンツを2口以上購入した場合、2口目以上は別の新規会員をあっせんしたものとみなして、報酬が支払われることとなっていた。
Xは平成28年8月~平成29年9月の間、A社に対し登録申請料及びコンテンツ代金として約207万円余を支払い、計11口分の会員IDを取得し、複数口分のコンテンツを購入した。
同時にXは、会員としてコンテンツ販売のあっせん活動を反復継続して行い、A社からその報酬を受け取った。
Xは平成29年分の所得税の確定申告において、上記登録申請料及びコンテンツ代金を必要経費に算入しなかった。Xは平成30年12月、平成29年分の所得税等について、登録申請料及びコンテンツ代金は事業所得に係る必要経費に該当するとして、更正の請求を行ったが、原処分庁は令和元年9月、更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
Xは同年11月、この処分を不服として、審査請求をした。

Xは、連鎖販売取引の方法によりコンテンツの販売のあっせんを事業として営んでおり、A社に支払った登録申請料及びコンテンツ購入代金等は全て、事業に係る収入を得るためのものであり、事業所得を生ずべき業務と直接関係を持ち、かつ、業務の遂行上必要な支出であることから、所得税法37条1項に規定する必要経費に該当する等と主張した。
これに対し原処分庁は、Xの支出はコンテンツの価値高騰を期待した、いわば投資目的のものであり、必要経費に該当しない等と反論した。

審判所は、前提として、ある支出が所得税法所定の必要経費に該当するかどうかの判断は、業務内容などの個別具体的な事情に即して客観的に行わなければならないとした上で、本件を検討。
(1) 「デジタルWEBコンテンツ」に実体がなく、資産的価値がなかったこと
(2) コンテンツは特定商取引法上の連鎖販売取引において販売の対象とされていたこと
(3) コンテンツの販売のあっせん活動をするためには会員登録のため登録申請料を支払うとともに、コンテンツを購入しなければならなかったこと
等のことから、支出のうち、会員IDを取得するためにした支出については、客観的にみて本件事業と直接関係を持ち、かつ本件事業の遂行上必要な初期登録費用に当たると認められるとした。
ただし、所得税法37条1項は、必要経費に算入すべき金額は、別段の定めのあるものを除き、その年に債務の確定しているものに限る旨規定していることから、原則として債務が確定した年において必要経費に算入すべきとして、Xが取得した計11の会員IDのうち、支払日と会員登録日が平成29年中である計9の会員IDについてのみが該当するとし、また同一IDで複数口分を購入しているものについては、それぞれ1口分のコンテンツ購入代金のみが会員IDを取得するための支出であり必要経費に該当すると認定した。
以上に基づき、Xの所得税等の還付金の額に相当する税額を計算したところ、Xが当初申告時に確定申告書に記載した還付金の額より過少であったことから、この部分について原処分を取り消した。