農林水産業への労災保険法強制適用に関する検討が行われました
11月20日、第124回労働政策審議会労働条件分科会労災保険部会が開催され、農林水産業への労災保険法強制適用に関する検討が行われました。
農林水産業のうち、小規模な個人経営の事業は「暫定任意適用事業」として、強制適用の例外となっていますが、『労災保険制度の在り方に関する研究会 中間報告書』(令和7年7月30日)にて、「農林水産省とも連携の上、順次、強制適用に向けた検討を進めることが適当と考える」「事業者の把握や、保険料の徴収上の課題がどの程度解決されつつあるのかの具体的な検証が必要であり、また、零細な事業主の事務負担の軽減等も十分に配慮する必要がある」「林業及び水産業についても農業と同様、課題の解決策を検証した上で検討を進める必要がある」とされ、これを踏まえて労災保険部会における検討が行われてきました。
同部会では、公益・労働者・使用者側委員のいずれもから廃止に賛成が示されるとともに、関係者周知や事務手続きに関して、関係省庁との連携や農林水産業界の団体からの意見聴取などを行うべきとされました。
第124回では、上記の意見を踏まえ、農林水産省等および業界団体から強制適用に際しての支援等に関するヒアリングが行われました。
次のような意見が寄せられています。ここでは、主なものを紹介します。
【農林水産省】
●暫定任意適用事業について
→ 強制適用に向けた検討を進めることについて、賛成
●農業経営体の把握・制度周知について
→ 対象となる経営体を特定して個別に周知するのではなく、農業経営体全般に対して周知が必要。また、農業経営体だけでなく、働く側へのアプローチも必要。
→ 農業の特殊性として、ゆい・手間替えや家族労働力など、契約関係のない曖昧な形で労働提供がされることがある。そこを改めて、労働者としての性格を明確にして進めていくことが必要。
●事務負担の軽減について
→ 加入に対する支援があると非常に効果的。社労士との連携等による加入手続のバックアップへの公的な支援が必要。それによって各地域の農協や農業委員会等も動きやすくなるのではないか。
→ 保険料算定時の事務を簡素化するため、賃金台帳の整備も同時に推進する必要。
【一般社団法人全国農業会議所、一般社団法人全国農業協同組合中央会】
●暫定任意適用事業の見直し・強制適用の方向性について
→ 農業労働環境整備、雇用労働者を保護するとともに、農業経営者が使用者責任を全うする観点からも賛成
→ 多様な農業者を包含する農業現場の実態や、厳しい農業経営の環境について十分配慮することが必要
●課題(具体例)
→ 労災保険の加入に際しては、所要の手続きによる混乱や、時間がかかること等が懸念されるため、施行前に所管官庁が業所管官庁や農業団体等と連携して、適切な労務管理がなされるように支援措置を講じる必要がある。
→ 施行については、農業者への制度および事務手続きの理解にかかる期間として、相応の年数が必要と考える。
→ 農業者の加入および給付請求にかかる事務負担については、社会保険労務士の体制や事務組合等の実態把握を行い、実情を踏まえた措置を検討する必要がある。農業協同組合による事務組合は、人的体制・財政の両面で困難な状態にある組合も多く、社会保険労務士を中心に地域全体で支える体制を構築することが、多くの地域では現実的ではないか。
【林野庁】
●林業における労災保険の適用拡大について
→ 法人・個人を問わず、雇用主が労災保険に加入する意義は大きい。
→ 施行までの十分な周知期間および労基署等からの新規加入者への事務手続きの丁寧な指導等が必要。
【一般社団法人 日本林業経営者協会】
●暫定任意適用事業の撤廃に対する意見
→ 林業における暫定任意適用事業の撤廃については強く賛同する。
●制度改正に伴う課題と要望
→ 事故防止と円滑な施行のため、施行までの準備期間を十分に設け、安全教育を徹底すること。
→ 労働基準監督署による丁寧かつ継続的な支援体制の構築、申請に必要な書類の統合・省略を含む手続きの簡素化、わかりやすいマニュアルの整備をすること。
→ 地域格差是正に向けた体制整備および地域の事務組合等の情報整理を進めること。
【水産庁】
●労災保険の適用について
→ 労働者保護・経営安定の両方の観点から労災保険への加入は重要。
●漁業経営体の把握・制度周知について
→ 漁業における特殊性として、季節ごとに異なる種類の漁業を行う者も多いなど実態がつかみにくい事情があることも考慮にいれる必要がある。
●事務負担の軽減について
→ 個人でも対応可能となるよう、単にオンライン申請を推進するというだけでなく、手続きの簡素化やわかりやすい案内の整備も重要。
●労災保険料について
→ 加入をスムーズに進めるためには労災保険率の引き下げも重要で、このためには、漁業における労働災害発生率を下げることが重要。
【全国漁業協同組合連合会】
●漁業における暫定任意適用事業の見直しにあたって
→ 労働者保護や人材確保の観点から、雇用主が労災保険に加入し、労働環境の改善をしていくことの意義は大きい。
●労災保険の事務手続について
→ 制度の周知や加入及び給付請求等の事務手続については、労働基準監督署による丁寧かつ継続的な対応が必要。
●自助共済とのすみ分け
→ 漁業における事業主は、JF共済をはじめとした各種の民間保険に加入し、既に労働災害へ対応している者も多い。こうした漁業者が混乱しないようあらかじめ準備するため、国にはこれらの団体等にも情報共有を図った上で、必要な準備期間を設けていただきたい。
●一人親方等の特別加入制度について
→ 現状、漁業における一人親方等については、「採捕の事業」のみが対象となっており、養殖の場合、原則として特別加入をすることができない。
こういった問題が解消され、漁業全体として労災保険加入が進むことが、労災保険加入への意識の醸成にも繋がることが期待されると考えられる。
詳細は、下記リンク先にてご確認ください。